越境ECに正解はない|商品特性で選ぶ海外販売プラットフォーム戦略

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なぜ「海外での売り方」は1つではないのか?

越境ECの失敗要因は「売り方のミスマッチ」

越境ECに挑戦した多くの企業が直面する壁のひとつが、「売り方のミスマッチ」です。
例えば、日本国内で実績のある商品をそのまま海外向けに販売したにもかかわらず、全く売れない。広告も回しているのに、反応がない。
このような事例の多くは、「プラットフォームの選定」や「顧客への価値の伝え方」が適切でなかったことに起因します。

商品の特性やターゲットの文化・購買行動に応じた「売り方の設計図」を描かないまま、闇雲に海外展開を進めてしまうと、せっかくの商機も逃してしまうのです。

自社ECだけが選択肢ではない理由

越境ECというと「Shopifyで自社サイトを構築して、多言語化+決済対応+物流連携すればOK」というイメージが強いかもしれません。
しかし実際には、自社ECは“最適解”のひとつであって“唯一の答え”ではありません。

たとえば、日本の伝統工芸やハンドメイドアクセサリーのように情緒的な価値が重視される商品は、ファンを獲得しやすいクラウドファンディングやSNSと親和性の高い販売モデルが有効です。

一方、中古カメラ、楽器のように「状態・評価」が購入の判断材料になる商品なら、eBayや専門マーケットプレイスでの販売が適しています。

つまり、海外で売るためのプラットフォームは、商品やブランドの「特性」や「フェーズ」によって選び分けるべきなのです。

商品の「特性」に応じて戦略を変える時代へ

従来の日本国内向けECでは、商品ジャンルや業界によってある程度“定番の売り方”が存在していました。
しかし、越境EC市場においては、国や地域ごとの文化・規制・購入意思決定プロセスが異なるため、画一的な売り方は通用しません。

たとえば、

  • 「ストーリー性のあるクラフト商品」なら共感性を重視したクラファンが有効。
  • 「高機能ガジェット」ならスペック訴求×レビュー戦略が不可欠。
  • 「中小BtoB向け商品」なら信頼性を訴求できる自社サイト運用が鍵に。

このように、商品の“価値の伝え方”と“流通チャネル”の掛け算によって最適な売り方は変わります。
越境ECの成功には、まず自社商品の特性を見極めたうえで「どのルートで、どう届けるのがベストか?」を設計することが不可欠です。

4つの価値マトリクスで考える|商品タイプ別の売り方

海外で「どう売るか?」を考える際、最初にやるべきことは、自社の商品がどんな価値で選ばれるのかを明確にすることです。
そのヒントになるのが、今回紹介する「価値のマトリクス(4象限フレームワーク)」です。

このフレームワークでは、商品を2つの軸で分類します。

価値の軸①:機能性 vs 情緒性

1つ目の軸は、「その商品が、機能的価値で選ばれるのか」「情緒的価値で選ばれるのか」という視点です。

  • 機能的価値:性能・価格・利便性など、論理的・実用的な理由で選ばれる
    • 例)調理家電、登山用リュック、精密工具など
  • 情緒的価値:デザイン・世界観・ストーリーなど、感情的・共感的な理由で選ばれる
    • 例)ハンドメイド雑貨、クラフトビール、伝統工芸品

この軸を見極めることで、「スペック訴求が効くのか」「ストーリーテリングが必要か」といった、訴求方法の方向性が見えてきます。

価値の軸②:実績の有無(信頼・証明・レビュー)

2つ目の軸は、「その商品が、すでに実績や信頼を持っているかどうか」です。

  • 実績あり:レビュー・口コミ・販売実績・メディア掲載がある
    • 例)国内でベストセラーとなった美容液、有名人の使用実績があるバッグ
  • 実績なし:まだ世の中に出たばかり or 認知度が低い新商品
    • 例)プロトタイプ段階のIoT製品、新興ブランドのアパレル商品

この軸を判断することで、「既存の信頼を活かす売り方ができるか」「まずは信頼を積み上げる必要があるのか」という、戦略フェーズを整理できます。

この2軸を掛け合わせることで、以下の4象限(=4つの戦略ゾーン)が見えてきます:

     実績あり実績なし
機能的価値実利価値型保証価値型
情緒的価値評判価値型共感価値型

それぞれの象限が、どんな商品に該当し、どんな売り方が適しているのか。
次のセクションでは、この4つのタイプを具体的に解説していきます。

タイプ別|おすすめの越境EC戦略とプラットフォーム

前章で紹介した4象限マトリクスをもとに、それぞれの商品タイプに適した「売り方」と「使うべきチャネル」を具体的に解説していきます。

① 評判価値型|「認知とレビュー」が勝負を分ける商品

情緒的価値 × 実績あり のゾーンに位置するのが「評判価値型」です。
このタイプの商品は、すでに一定の認知やレビューが蓄積されており、ブランド力や使用体験の声が購入判断のカギとなります。

該当商品の例

  • 中古ブランド品(バッグ、ジュエリー、アパレル)
  • 高級中古時計(ROLEX、OMEGAなど)
  • 国内でメディア掲載実績があるデザイン雑貨

有効な戦略

  • SNS広告を活用した「クチコミ訴求」
  • 販売ページでのレビューの見せ方強化
  • タレント使用歴や受賞歴などの信頼ソース活用

向いているプラットフォーム

  • eBay(評価文化が浸透)
  • Chrono24(高級時計特化)
  • 自社EC+SNS広告(Instagram / Facebook)

② 実利価値型|「なぜ自社を選ぶのか」が重要な商品

機能的価値 × 実績あり のゾーンが「実利価値型」。
このタイプは、性能・コスト・納期・信頼性といった実用面での比較が重視されます。価格やスペックの明示が特に重要です。

該当商品の例

  • 中古車、農機具、工場用部品
  • 業務用キッチン機器、プリンターなどのBtoB商材
  • 実績あるOEM製品・リファービッシュ商品

有効な戦略

  • 導入実績の提示(納品先・事例)
  • 製品比較・用途別説明などのコンテンツマーケティング
  • 調達担当者向けのBtoB特化型サイト設計

向いているプラットフォーム

  • BtoBマーケットプレイス(Alibaba、Tradekey等)
  • 自社EC(カスタマイズ可能な商品一覧/資料請求)

③ 共感価値型|「ファンを作る」ことが最優先

情緒的価値 × 実績なし のゾーンに属するのが「共感価値型」。
まだ認知度はないものの、世界観・理念・ビジュアルなどに共感してもらえることで購入につながる商品です。

該当商品の例

  • 地域発のクラフト系アパレルや雑貨
  • 日本の伝統工芸やアップサイクルプロダクト
  • 小規模ブランドのナチュラルコスメ

有効な戦略

  • ブランドのストーリー発信(動画・note・SNSなど)
  • 創業者の想いや製造工程を可視化
  • SNSコミュニティでのファンづくり

向いているプラットフォーム

  • Kickstarter(海外クラファン)
  • 自社EC+Instagram / Pinterest活用
  • イベント型EC(Pop-up的な販売も◎)

④ 保証価値型|革新性と説明力で差をつける商品

機能的価値 × 実績なし に該当するのが「保証価値型」。
画期的な機能や技術があっても、それが知られていない状態では売れません。“信頼できそう”と思わせる説明と証拠が求められます。

該当商品の例

  • 新素材を使ったスポーツウェアや高機能ジャケット
  • スマートホーム関連のガジェット
  • スタートアップが開発した独自プロダクト

有効な戦略

  • クラウドファンディングでの先行体験・信頼の可視化
  • 使用シーンを伝える動画・レビューの強化
  • メディア掲載・PRでの社会的証明を獲得

向いているプラットフォーム

  • Kickstarter、Indiegogo(革新性のある海外向け)
  • Makuake(日本発スタートアップ向け)
  • 自社EC(クラファン後の引き継ぎ用)

それぞれの商品タイプには、「売り方の必勝パターン」が存在します。
「とりあえずShopifyで自社サイトを作る」だけではなく、商品の価値と現時点の立ち位置に合わせたチャネル設計が、越境ECの成功を大きく左右します。

まとめ|越境ECでは「商品×フェーズ」で戦略を変える

越境ECは、「ただ翻訳して海外に出す」だけでは成果につながりません。
大切なのは、その商品が今どんな価値を持ち、どのフェーズにあるのかを正しく見極めたうえで、最適な売り方=戦略とチャネルを設計することです。

最初に「売り方の地図」を描こう

越境ECを始めるにあたって、まずやるべきは「何を、誰に、どう売るのか」という売り方の地図=戦略マップを描くことです。

  • 自社の商品は機能性で選ばれるのか?情緒性か?
  • 実績はあるのか?ゼロから信頼を作る必要があるのか?
  • 顧客はどのチャネルで情報を集め、どこで購入しているのか?

こうした問いに答えながら、売り方の“型”を明確化することが、最も遠回りに見えて近道になります。

クラファン→Amazon→自社ECという複線的展開も視野に

販売チャネルは一つに絞る必要はありません。むしろ、商品の特性や成長フェーズに応じて段階的にチャネルを切り替える/複線展開するのが理想的です。

たとえば:

  1. クラウドファンディングで初期ユーザーと信頼を獲得
  2. Amazonやモール型ECで販路を拡大・レビューを蓄積
  3. 自社ECでブランディング・リピーター獲得・利益率改善へ

このようなステップを踏むことで、無理なくブランドを海外市場に定着させることが可能になります。

「海外で売る」には、まず日本国内での実績作りも有効

最後に忘れてはならないのが、「海外販売の成功は、国内での実績づくりが土台になる」ということです。

  • 国内でレビューを集める
  • PRや受賞歴を積む
  • SNSで共感を得る

こうした要素はすべて、海外ユーザーにとっても「信頼の証」になります。
特に越境ECでは、“知らない国の商品”に対する心理的ハードルを超える要素が重要です。まずは日本国内で「応援されるブランド」を築くことも、グローバル展開の一歩なのです。

越境ECは一発勝負ではなく、「商品×戦略×フェーズ」を丁寧に掛け合わせながら進める、中長期の設計図を描くプロジェクトです。
売り方の最適化ができれば、販路も利益も広がっていきます。まずは、自社商品の「価値の整理」と「売り方の地図」づくりから始めてみてください。

*記事内の図や戦略マトリクスを含む資料は、下記の資料ダウンロードから無料でダウンロードできます。

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