なぜ今、越境ECなのか?|始めるための好条件と成功のカギを解説

越境ECを始めるには今が絶好のタイミング
インバウンド回復と内需減少が背景に

コロナ禍で激減していた訪日外国人観光客は、2023年以降急速に回復しています。東京や大阪、京都といった主要都市には再び多くの観光客が戻り、免税店やEC経由での購買意欲も高まりを見せています。
一方、日本国内では少子高齢化の影響によって市場規模の縮小が続いており、企業がこれまで通りの成長を維持することが難しくなりつつあります。こうした背景から、「外に打って出る」=海外市場をターゲットとした越境ECに注目が集まっています。
特に、これまでインバウンド需要を取り込んでいた商品(日本製の化粧品、日用品、食品など)は、今後オンライン越境ECでも通用する可能性が高いと考えられています。実際に、海外向けの販売チャネルを早期に整備した企業が、成果を上げ始めています。
政府・自治体も越境ECを後押し

民間企業だけでなく、日本政府や自治体も越境ECの拡大を強く後押ししています。
たとえば、JETRO(日本貿易振興機構)や中小企業基盤整備機構などが主催するセミナーや個別相談会は年々充実しており、海外進出を目指す企業へのサポート体制が整備されています。
実際にJETROが公表しているデータでも、海外市場に関心を持つ企業は増加傾向にあり、なかでも越境ECは低コストでスタートできる海外展開の手段として人気を集めています。
こうした支援を活用すれば、「越境ECに興味はあるが、何から始めてよいかわからない」という企業にとっても、スムーズな第一歩を踏み出しやすい環境が整っているといえるでしょう。
それでも多くの企業が越境ECで失敗する理由

ノウハウ不足と「なんとなく」始めてしまう危うさ
越境ECに取り組む企業は年々増加していますが、実はその多くが期待した成果を出せていないのが現実です。その最大の原因は、明確な戦略やノウハウがないままスタートしてしまうことにあります。
「ECサイトさえ作れば、あとは自然と売れていくだろう」
「国内で売れている商品なら、海外でもきっと売れるはず」
こうした思い込みで始めてしまうと、想定外の障壁に直面します。
たとえば、言語や通貨、決済方法、物流、関税、カスタマーサポートなど、海外向け販売には国内とは全く異なる要素が多数あります。それらに対する事前準備が不足していると、販売開始後にトラブルや機会損失が発生しやすくなります。
さらに、越境ECを始める際にありがちな課題として、次のような声が多く聞かれます:
- ECサイトを作ったが、思うように売れない
- 何から始めればよいか分からない、どうすれば成功するのか不明
- 海外ユーザー対応を外注したが、的確なサポートができていない
こうした課題を乗り越えるには、越境ECの経験を持つパートナー企業やアドバイザーのサポートを受けることも1つの手段です。知識ゼロのまま独学で挑戦するよりも、成功までの道筋が大幅に短縮される可能性があります。
成功するには“段階的ステップ”が不可欠

越境ECに取り組むうえで、最も見落とされがちなポイントが「段階的に市場検証と拡大を進める戦略」です。
「海外市場は日本の数十倍あるから、売上10倍も夢じゃない」
「日本で売れているんだから、海外でも売れるはず」
こう考えて大規模な在庫投下や広告出稿から始めてしまうと、高い確率で失敗します。なぜなら、日本では当たり前に評価されている商品でも、海外市場ではそもそも需要がない/価格が合わない/競合に埋もれることが多々あるからです。
そのため、まずは小さくテストし、商品や販売方法がその市場で“通用するか”を確認する必要があります。これが「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)検証」のステップです。
フェーズ1:PMF検証(市場適合性の確認)
この段階では、まず小規模な販売チャネルを通じて、ターゲット市場における商品の反応や売れ行き、レビューなどを調査します。たとえば:
- 海外向けクラウドファンディング(Kickstarterなど)
- 海外向けの越境ECモール(Shopee、Lazada、Amazonなど)
- SNSを通じたコンテンツマーケティング
- 海外インフルエンサーとの協業
- アンケートや簡易的な市場調査
このフェーズの目的は、本格展開する前に「この商品は売れるのか?」を見極めることにあります。失敗しても被害が小さく済む反面、得られる学びは非常に大きいため、ここでの検証は慎重に行うべきです。
フェーズ2:グロース(本格展開と拡大)
PMFが確認できたら、いよいよ「拡大(グロース)フェーズ」に進みます。
ここでは、実際に自社ECサイト(Shopifyなど)や独自の販売チャネルを立ち上げ、広告やSEO、SNS、インフルエンサー活用などを通じて本格的な売上拡大を目指します。
- Shopifyでの自社越境EC構築
- 海外向け広告(Meta広告、Google広告など)
- コンテンツマーケティング(ブログ・動画)
- リピーター獲得のためのCRM構築
- パートナー企業との物流・CS体制の整備
このフェーズに移行するタイミングとしては、最短でも1年、通常は2〜3年のスパンを見据える必要があります。中長期的な視点で、ブランドを現地に根付かせていく覚悟が重要です。
このように、「PMF → グロース」という2ステップを明確に意識して進めることで、越境ECの失敗リスクを大幅に減らし、着実な成長を目指すことができます。
扱う商品によって戦略が変わる

越境ECで成功するためには、「どの商品を、どの市場に、どうやって売るか」という商品特性に応じた戦略設計が不可欠です。国内ECではある程度汎用的な施策が通用するケースもありますが、海外市場では文化・規制・ニーズ・競合状況が大きく異なり、売り方そのものを柔軟に変える必要があります。
たとえば、以下のような戦略が考えられます:
インバウンド需要を逆利用した販売戦略
訪日外国人観光客が好んで購入する商品(例:化粧品、医薬部外品、キッチン用品、文房具など)は、そのニーズを分析すれば越境ECでもヒットの可能性があります。
特にレビューやSNS投稿を通じて話題になった日本商品は、すでに「現地でのブランド認知の種」が撒かれていることが多く、これを起点に現地展開するのは非常に有効です。
Shopifyを活用した自社ECサイトの構築
汎用性の高い商品やブランド構築を狙う場合は、モール出店ではなくShopifyなどで独自の越境ECサイトを作ることで、中長期的なブランディングやCRM(顧客管理)が可能になります。
特に、商品にストーリー性やデザイン性がある場合、自社サイトでの演出や価格戦略が差別化に繋がります。
海外のクラウドファンディングやAmazon活用
ニッチなアイデア商品やガジェット系は、海外クラファン(Kickstarter、Indiegogoなど)での先行テスト販売が有効です。話題性が高まれば、その後Amazon本体やFBAを使った越境販売にもスムーズに展開できます。
この方法は特に、まだ知名度のない新規ブランドにおすすめです。
BtoB販売とのハイブリッド戦略
製品単価が高い商材や業務用商品、OEM対応品などは、海外の小売業者・商社・バイヤーに対するBtoB型のアプローチが効果的です。
ECサイトでリードを集め、現地法人や卸パートナーと連携して販路を広げていくモデルも、越境ECの一形態として定着しつつあります。
このように、取り扱う商品ごとに最適な戦略は異なります。まずは自社商品がどのポジションにあるのかを見極め、正しいチャネル選定とマーケティング戦略を構築することが、越境EC成功への第一歩です。
まとめ|今こそ越境ECを始める好機

海外市場への扉は、今まさに開かれています。
インバウンド需要の復活、国内市場の縮小、そして政府支援の拡大——これらの要素が重なった「今」は、越境ECに取り組むには絶好のタイミングです。
しかし、やみくもに始めるのではなく、段階的なステップと商品ごとの戦略設計を通じて、一歩一歩確実に進めることが、成功への近道です。