顧客理解は越境ECの生命線|海外ユーザーの声を引き出すインタビューの実践法

なぜ、越境ECで「顧客理解」が重要なのか?

越境ECにおいて最も重要な土台のひとつが「顧客理解」です。
商品やサイトを日本語から英語に翻訳するだけでは、実際に購入されるとは限りません。言語だけでなく、文化・購買動機・不安・価値観が異なるため、その国・その市場の“文脈”を理解することが成功を大きく左右します。
顧客インサイトを捉えることが成果の差を生む理由

同じ商品でも「何を魅力的に感じるか」は国ごとに違います。
たとえば、日本では「細部のこだわり」や「素材の品質」が評価される一方、海外では「使いやすさ」や「ストーリー性」に注目が集まることもあります。
こうした顧客の本音(=インサイト)を捉えることで、広告の訴求や商品ページの構成に大きな違いが生まれます。これが、売れるかどうかの明暗を分けるポイントです。
日本での感覚をそのまま持ち込むリスク

日本での成功体験をそのまま海外に持ち込むと、思わぬ失敗につながることがあります。
たとえば、「日本製」や「送料無料」は日本国内では強い価値を持ちますが、海外では当たり前と受け取られたり、そもそも関心を持たれないケースもあります。
また、英語が通じるからといって、文化的背景まで理解されるとは限りません。価値基準が異なる市場において、何が「当たり前」で、何が「魅力的」なのかを調べる姿勢が不可欠です。
成功する商品の裏には「市場理解」がある
実際に成果を上げている越境ECブランドは、どれも例外なく「市場理解」を重視しています。
ターゲットとなる国や地域の文化・購買習慣・競合環境を調査し、それに合わせた商品訴求・サイト設計・広告運用を行っています。
この「市場理解」の出発点が、現地ユーザーの声を聞くこと=インタビューです。リアルなフィードバックをもとに、コンセプトや訴求軸を調整していくことで、より“刺さる”商品展開が可能になります。
ユーザーインタビューが最適な手段である理由

越境ECにおいて「顧客理解」は生命線ですが、その中でも特に効果的な手段がユーザーインタビューです。
データや感覚に頼るのではなく、実際の海外ユーザーと直接話すことによって、思考や行動の背景を深く掘り下げることができます。
海外ユーザーの行動・思考を深掘りできる
インタビューの最大の強みは、「なぜその行動を取ったのか?」という動機の部分に迫れることです。
たとえば、なぜこの商品を選んだのか、購入時に不安だった点は何か、競合と比較したか、などの問いかけを通じて、ユーザー自身も気づいていなかった購買動機が浮かび上がってきます。
とくにZoomなどでの1対1インタビューでは、発言のニュアンスや間の取り方、迷いなどからも本音が垣間見えます。アンケートやアクセス解析では見えない「深層心理」を言語化できるのが、インタビューの真価です。
自社商品と相性の良い層や訴求ポイントが見えてくる
「誰に刺さるのか」「何が刺さっているのか」を把握するには、数値より会話から得られる文脈情報が重要です。
たとえば、同じワンピースでも「デザインが可愛いから」ではなく、「仕事終わりにそのままディナーに行けるから便利」という理由で購入されていた――このような背景は、ヒアリングなしでは見えてきません。
複数人に聞くことで共通点が見え、自社商品のターゲット像がより鮮明になります。それに合わせて訴求軸やコピーを調整すれば、広告や商品説明の転換率にも直結します。
SNS分析やアンケートでは得られない「生の声」
SNSの反応やレビューも顧客のヒントにはなりますが、本質的なニーズや不安はその奥に隠れています。
アンケートでは無難な答えしか出てこないことも多く、「なぜそう感じたのか?」と掘り下げることができません。
一方、インタビューでは会話の流れの中で「実は…」という本音が出てきます。
そこから見えてくるのは、単なる要望ではなく、購買の裏側にある感情や価値観です。これこそが、今後の商品開発や市場戦略にとっての最重要データになります。
インタビュー実施のステップ|何を、誰に、どう聞くか?

ユーザーインタビューの重要性が分かっても、実際に「誰に・何を・どう聞けばいいのか」でつまずくケースは少なくありません。ここでは、越境ECにおけるユーザーインタビューの進め方を、具体的に解説します。
インタビュー対象者の選び方
最も理想的なのは、すでに自社商品を購入した海外の顧客です。購入という行動を実際に起こしたユーザーは、なぜその決断に至ったのか、どこで迷ったのかなど、非常に有益な情報を持っています。
購入者がまだ少ない場合や初期段階では、SNSや掲示板で回答者を募るのも有効です。具体的には以下のような手段が使えます:
- InstagramのフォロワーにDMで協力を依頼
- 英語圏ユーザーが多いX(旧Twitter)でリプライを募集
- Redditなどの海外掲示板で、関連トピックの参加者にインタビュー協力を呼びかける
このような“外部からの候補者発掘”も、初期には有効なアプローチです。
聞くべき質問例
インタビューでは、ユーザーの「行動」に焦点を当てた質問をすることが大切です。抽象的な感想ではなく、実際にどう考えて行動したのかを明らかにしましょう。たとえば以下のような質問が効果的です:
- 「なぜこの商品を購入しようと思ったのですか?」
- 「購入前に不安だったことはありますか?」
- 「他の商品やブランドと比較しましたか?それはどこでしたか?」
- 「サイト内でわかりにくいと感じた箇所はありましたか?」
- 「決め手になったのは、どんな要素でしたか?」
これらはすべて、“どのように決断に至ったのか”を引き出すための問いです。単なる「満足していますか?」ではなく、選択プロセスそのものに焦点を当てることが、価値ある発見につながります。
おすすめの実施形式
形式としては、ZoomやGoogle Meetなどで1対1のインタビューを1時間程度行うのが理想です。
その場で雑談のように話を広げながら、本音を引き出すことができます。
事前に簡単なアンケート(年齢、居住地、使用目的など)を送っておくことで、当日のヒアリングもスムーズになります。
また、最低でも3人以上には実施することを推奨します。複数人に聞くことで共通点が見えてきたり、思い込みやバイアスを排除できるからです。インタビューを通じて見えてくる共通の傾向は、そのままペルソナ設計や訴求軸のヒントになります。
インタビューから得られる改善のヒント

ユーザーインタビューを実施したあとは、得られた声をどのようにECサイトや商品戦略に反映させるかが重要です。ただ聞いて終わりではなく、実際の「改善アクション」に落とし込むことで売上や顧客満足度に直結します。
ここでは、越境ECにおいてよくある改善ポイントとその具体例を紹介します。
商品コンセプト/見せ方の最適化
ユーザーの購買理由を深掘りすると、想定していた強みと、実際に響いていたポイントがズレていることがあります。
たとえば、あるアパレルブランドは「高品質な素材」を前面に出していたものの、実際のインタビューでは「写真の雰囲気がかわいかった」「コーデ提案が想像しやすかった」という声が多く聞かれました。
この場合、素材のこだわりよりも**“着たくなるイメージ”の提示**を強調する方が売れるわけです。
インタビューは、訴求軸の調整や商品コピーの再設計に直結します。
サイト構成の改善(例:Aboutページの強化)
「どんな会社が運営しているのか分からなくて不安だった」という声があれば、それは信頼性に関する課題です。
こうした場合には、以下のような改善が有効です:
- ブランドの想いやストーリーを語るAboutページの充実
- 運営者の顔・企業情報・製造背景の開示
- 「私たちはどこの誰か」を明示することで、海外ユーザーの心理的ハードルを下げる
とくに海外ユーザーは「知らない会社から買う」ことに慎重なため、透明性が売上を左右する要素になります。
不安解消型コンテンツの追加(配送・返品・品質保証など)
「届くまで何日かかるか分からなかった」「返品ができるか不安だった」という声が多く聞かれた場合は、FAQやヘルプページの整備が急務です。
- 配送日数の目安(国別で明記)
- 関税・送料についての明示
- 返品ポリシーやサポート体制の記載
- 商品のサイズ感・使用方法のガイド動画
これらは一見地味ですが、購入直前で離脱する「不安層」への対策として非常に有効です。
実際の改善事例|コスメD2Cブランドの場合
ある日本発のナチュラルコスメブランドは、海外向けECを開設したものの、1ヶ月での売上は数件と苦戦していました。
その後、英語圏ユーザー3名にインタビューを実施。以下のような気づきを得ました:
- 「何が入っていて、どんな効果があるのか分かりにくい」
- 「使用ステップや対象肌タイプの説明がない」
- 「自然派は好感だが“なぜ信頼できるのか”の根拠が弱い」
この声を受けて、以下を実施:
- 成分の英語説明+使用ステップの図解追加
- Before/After写真や使用感レビューを掲載
- 製造背景と品質保証のストーリーをAboutページで可視化
結果、改善から2ヶ月でCVRは2.8倍、月商は10倍以上に成長。ユーザーの不安が解消され、納得して購入に進めるサイトに進化しました。
成功の鍵は「行動」に着目すること
ユーザーインタビューでは、つい「何を考えていたか」「どう感じたか」といった意見や印象に目が行きがちです。
しかし、越境ECにおいて本当に成果につながるのは、ユーザーの「行動」に着目する視点です。
「考え」よりも「行動」に注目すべき理由
人は自分の行動を言語化する際に、意図的・無意識的に美化したり、後付けで理由をつけて話すことがあります。
たとえば、「環境に配慮して買った」と語っていても、実際には**“Instagramで見たから”**がきっかけだった、というようなケースです。
だからこそインタビューでは、「どう思いましたか?」ではなく、
- 「最初にどのページを見ましたか?」
- 「何が決め手でカートに入れましたか?」
- 「買う直前に何を検索しましたか?」
といった具体的な行動の流れに焦点を当てる必要があります。行動には嘘がなく、実際のユーザー体験に直結しています。
思い込みを避け、ユーザー視点でサイトを分析する視座
商品やブランドに愛着があるほど、「このコピーは響いているはず」「このページ構成は分かりやすいはず」といった自分視点の思い込みに陥りがちです。
しかし、ユーザーインタビューを通じて「わかりにくい」「伝わっていない」という声があれば、それが事実です。
そのとき大切なのは、「なぜ伝わらなかったのか」を行動ベースで解釈する視座です。
たとえば、
- スマホでしか見ていない人にとって、1ページスクロールが長すぎる
- 商品の良さを説明する動画がファーストビューに出てこない
- サイズ表が英語表記で混乱している
など、ユーザーがどのように“行動”していたのかを再現する視点が、サイト改善のヒントになります。
文化的背景を理解して設問設計・分析を行う重要性
ユーザーの行動を分析する際には、文化的背景を理解することも欠かせません。
たとえば、日本人が安心感を求めて「詳細な成分表記」を重視する一方、アメリカでは「レビュー数」や「利用者の写真」の方が信頼性につながる場合があります。
つまり、同じ設問でも文化によって答えの意味が変わるのです。
そのため、インタビュー設計の段階から:
- 国ごとの購買慣習や信頼の尺度
- 価値観や美意識の違い
- ECにおける期待水準(配送日数、返品の柔軟性など)
を理解しておくことで、回答の意図を誤解せず、本当に意味のある示唆を導き出すことが可能になります。
ユーザーの「行動」を捉え、「その背景にある文化」を読み解きながら仮説と改善につなげる。
これが、越境ECで成果を出すブランドが共通して実践しているアプローチです。
まとめ|越境ECの顧客理解にはインタビューが欠かせない

越境ECで成果を出すには、「翻訳」や「配送対応」だけでは足りません。本質的に重要なのは、その先にいる“海外ユーザーの頭の中”をどれだけ理解できるか──つまり、顧客理解の深さです。
その鍵を握るのが、ユーザーインタビューという手法です。
表面的なデータではなく、深層心理と行動から学ぶ
アクセス解析やSNSの反応といった「表面的なデータ」は、あくまで入口にすぎません。
その背後にある「なぜ買ったのか」「どこで迷ったのか」「何が決め手だったのか」を掘り下げることで、ユーザーの深層心理や行動パターンが見えてきます。
そうした“生の声”こそが、商品ページの構成、広告のコピー、配送や返品の仕組みといった、あらゆる改善の起点になります。
成功ブランドは「顧客の声」をマーケティングの核にしている
海外展開に成功しているD2Cブランドは例外なく、ユーザーの声をマーケティング戦略の中心に据えています。
売上やCVRといった指標は結果に過ぎず、その前に「何を感じ、どう動いたか?」というユーザーのリアルな体験を深く理解しているのです。
顧客理解の解像度が上がれば、ターゲティングも訴求も自然と洗練されます。
インタビューはその最短ルートであり、今すぐにでも実行可能な「最も確実な改善アクション」のひとつです。
海外ユーザーの頭の中を覗きにいくこと。それが越境EC成功の第一歩。
インタビューは、あなたのビジネスに「見えていなかったチャンス」をもたらしてくれるはずです。
*この記事の資料は、「資料ダウンロード」からダウンロードできます。